中国で紙の鉄道切符が姿を消す――旅の記憶は続く
【10月3日 CNS】多くの中国人にとって、薄い一枚の鉄道切符は単なる列車番号や座席番号以上の意味を持っていた。ある人はアルバムに収め、ある人は冊子に綴じ、小さな紙片は数え切れないほどの人びとの学びや仕事、旅行、帰省に寄り添ってきた。今、その何世代もの旅を見届けてきた「切符の思い出」が終わろうとしている。
中国鉄道当局の規定により、9月30日以降は紙の領収証が全面的に廃止され、電子領収書に置き換えられる。つまり、「厚紙の切符」「磁気切符」「磁気カード式切符」といった形の変遷を経て、数億人の移動を支えてきた紙の鉄道切符は、その役割を終えることになる。
北京市のいくつかの駅では、発券機の前に今も列ができていた。若者に手伝ってもらい切符を受け取った黄逸(Huang Yi、仮名)さんは「記念に一枚残したかった。昔の電報や切手のように、手に持つとやはり特別な感じがする。これから紙の切符がなくなると思うと、本当に名残惜しい」と語った。
鉄道当局は、今後は紙の領収証を発行しないとしながらも、駅では引き続き行程表の印刷サービスを提供し、列車番号や座席番号はSMSで即時に通知するとしている。つまり利便性は変わらないが、旅の「儀式的な感覚」を続けるには新しい方法が必要になる。
実際、中国鉄道の「ペーパーレス化」はすでに長く進められてきた。2018年に海南島の環状鉄道で電子切符の試行が始まり、2020年には全国で「身分証をかざして改札を通過」する方式が広がった。これにより紙の切符は旅客の前から徐々に消えていった。ペーパーレス化は紙の消費を減らし、切符を受け取るために並ぶ手間や紛失の心配もなくした。出張が多い人にとっては、電子領収書によって経費精算もスムーズになった。
多くの人にとって、鉄道切符は単なる乗車証明ではなく、中国の交通発展の縮図でもあった。1980〜90年代には、緑色の車体の列車と赤い紙の切符が、春節(旧正月、Lunar New Year)の帰省ラッシュで「切符が手に入らない」状況を象徴していた。高速鉄道時代に入ると、水色の磁気切符が「緑の列車」から「復興号」への飛躍を見届けた。
苗賀(Miao He、仮名)さんは数百枚の切符を集めており、SNSで「これは北京から武漢(Wuhan)に桜を見に行ったときの切符。あれは大学時代に実家に帰省した時のもの。今でも旅行に出るときは紙の切符を受け取って、記念に残している」と書いている。コメント欄には多くの人が自分の切符の思い出を投稿し、「肉蟹煲(Rou Xie Bao)」というユーザーは「こうして切符を集める意味が分かった。一瞬であの旅の記憶がよみがえる」とつづった。
紙の切符が消えゆく一方で、新しい記念の形も登場している。あるアプリでは電子切符のテンプレートを作成でき、それを印刷すれば昔の切符とほとんど変わらない。また、ネット上では「切符収納アルバム」が販売されており、鉄道切符だけでなくコンサートや観光地のチケットも収められる。
紙の切符の終焉は中国だけのことではない。日本では新幹線がすでに全面的に電子化され、ICカードやスマホのQRコードが主流となっている。それでも、多くの旅行者が旅の手帳に記念切符を貼り、駅のスタンプを押すことで独自の旅行文化を楽しんでいる。韓国では韓国高速鉄道が近年オンラインやモバイル発券を大きく推進し、乗客はQRコードなどの電子切符で直接改札を通過できる。ヨーロッパでも多くの鉄道会社がモバイルチケットを普及させており、同時に印刷や駅での発券サービスも残している。
中国の国慶節連休の到来とともに、紙の鉄道切符は正式に姿を消す。かつては数え切れないほどの人びとと共に帰省や旅路を見届けてきたが、これからは新しい方式に取って代わられる。それでも北京でも、東京でも、パリでも、小さな切符は形を変えながら人々の旅の記憶をつなぎ続けている。苗賀さんが言うように「紙の切符がなくなるのは自然な流れ。でも記憶は消えない。いつか博物館で、これらの小さな紙片が一つの時代を物語るものになるかもしれない」。(c)CNS/JCM/AFPBB News
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